大きな音を出せないという住宅事情から、自宅スタジオでミックスダウンやマスタリングをヘッドホンだけで完結させるという人もいると思います。
ヘッドホンを中心の作業になる人は、1つのヘッドホンだけの作業だと、他のモニターで聴いたらバランスがまったく違うということになりかねないので、最低でも2つは定番のスタジオモニター・ヘッドホンを所有しておいたほうがよいです。
ミックスやマスタリングの現状なども踏まえた上で、失敗しないオススメDTM・DAWのモニター選びをテーマにした、このページ「スタジオモニター・ヘッドホン導入ナビ」を、2023年に約4年ぶりに記事をアップデートしました。
いくつかの新たなヘッドホンを紹介していますが、モデルチェンジせずに生産完了となった製品や、オススメから除外した製品は記事を削除しました。
スタジオモニター・ヘッドホンのガイド
原音のイメージを損なわずに再現することが目的
スタジオモニター・ヘッドホンはリスニング用のヘッドホンとは違い、原音のイメージを損なわずに再現することを目的に作られています。
そのためモニター用のヘッドホンは細かいノイズまで、聴き取ることができるので、使い始めの頃は、音楽を聴いていて気持がよくないと感じる人もいると思いますが次第に慣れて行きます。
長い時間使用することを考える
DTM・DAWを使った宅録スタジオでの音楽制作は、長時間の作業となり、スタジオモニター・スピーカと比較すると、ヘッドホンは耳への負担が掛かります。
頭の大きさや、耳の大きさは一人一人違うため、どのヘッドホンが疲れないと言い切ることはできませんが、長い時間付けていても耳が疲れないこともモニター用のヘッドホン選ぶ際には重要です。
最近はインナータイプのイヤホンでも、ミックス作業が可能とされる高品質な製品がありますが、個人的にインナータイプのイヤホンは耳に合わないせいか、疲労感が半端ではないので、最終確認用以外では使用していません。
おすすめスタジオ・ヘッドホンの比較
audio-technicaのモニター用ヘッドホン
国内メーカーである audio-technica(オーディオテクニカ)の1996年に発売されたプロ仕様のスタジオモニター用のヘッドホン「ATH-SX1」と、2007年に発売された世界が認めた「ATH-M50」はロングセラーの定番のモニターヘッドホンです。
低域の好みがわかれますが、リスニング用にも使うことができる「ATH-M50」の2014年にモデルチェンジした「ATH-M50x」と合わせた全世界での累計販売数は、250万本を超えています。
2008年にモデルチェンジした「ATH-SX1a」は、「ATH-M50x」により影の薄い存在となりましたが、価格が落ちてきたので、一度チェックしておくことがオススメです。
⇒ audio-technicaのスタジオ・ヘッドホンの詳細
YAMAHAのモニター用ヘッドホン
2016年11月にYAMAHAはスタジオモニター・ヘッドホン「HPH-MT8」「HPH-MT7」「HPH-MT5」を発売しましたが「HPH-MT8」は、現在プロユースの世界でのスタンダードになりました。
YAMAHAはモニタースピーカーのイメージが強いですが、近年では「原音忠実再生」の設計理念を掲げてヘッドホンにも力を入れていました。
2013年に発売した「HPH-MT220」「HPH-MT120」も、なかなかのヘッドホンでしたが、スタンダードという観点からは物足りなさがありました。
しかしスタジオヘッドホン「HPH-MT8」は間違いなくスタジオモニター・ヘッドホンのニュースタンダードです。
そのサウンドの特徴は「モニタースピーカーとの差が少ない音」というところにあります。「高解像度で原音に忠実」というヘッドホンはたくさんありますが「HPH-MT8」はここが大きなポイントです。
モニタースピーカーと違い、ヘッドホンでのミックスの大きな弱点は出すぎている場合が多い「低音のバランス」ですが、「HPH-MT8」は低音再生がかなり正確です。そのためモニタースピーカーに近い感覚で作業することができます。
SONYのモニター用ヘッドホン
国内メーカーSONY(ソニー)の「MDR-CD900ST」はサウンド・エンジニアやミュージシャンから大きな支持とシェアを獲得している音楽スタジオでは定番のモニター・ヘッドホンです。
またSONYの持ち運びに便利な折りたたみ式のヘッドホン「MDR-7506」も発売以来、高い評価を受けています。
この「MDR-CD900ST」と「MDR-7506」はどちらも素晴らしいヘッドホンで、宅録スタジオでの音楽制作でも、その威力を発揮します。
リスニング用の使用も考えている人には「MDR-CD900ST」よりも「MDR7506」のほうがよいと思います。
注意として書いておきますが「MDR-CD900ST」はミックスのメインに向くヘッドホンではありません。「DTM = MDR-CD900ST」みたいなものができ上がってしまっていますが、まともに音を知らない素人が誰かの記事を真似て、もっともらしく書いているだけだと思われます。
モニタースピーカーでの出音を計算すれば不可能ではありませんが、モニタースピーカーとの併用なしに「MDR-CD900ST」だけでのミックスは初心者には非常に困難です。
そのためミックス & マスタリング用途でヘッドホンを考えている人は、それらの作業を視野に入れた製品も販売されていますので、別の選択をしたほうがよいです。
SONYのモニター・ヘッドホンにこだわる人は、低域もしっかりと出ていてリスニング用途にも使える「MDR-M1ST」と、ミックスやマスタリングにも向いている「MDR-MV1」をチェックしておくことをオススメします。
定番の「MDR-CD900ST」と「MDR7506」に比べると、価格は高額になりますが、「MDR-M1ST」と「MDR-MV1」は、自宅スタジオではなく、商業スタジオで活動している人たちのなかで定番になってゆく可能性があります。
AKGのモニター用ヘッドホン
AKG(アーカーゲー)は欧米を中心として世界的にシェアと支持を獲得しているオーストリアの音響機器メーカーです。
そのAKGのスタジオ・ヘッドホン「K240 Studio」「K240MKII」「K271 Studio」は、モニター用のヘッドホンとして、バランスがとてもよく、価格が手頃ということもあり、日本国内でも人気があります。
自然な低音、中高域の細やかな鳴り方やタイトな音質が特徴的で、多くのエンジニアが愛用する「K240 Studio」(後継モデル「K240MKII」)は海外のスタジオでの定番のスタジオモニター・ヘッドホンで、音の定位もしっかりしています。
後継モデルが発売された後も、「K240 Studio」は生産完了することなく、販売され続けていて、定番のモニターヘッドホンでは最も価格が安くなっています。
また「K271 Studio」はレコーディングスタジオからライブステージまで、さまざまなプロフェショナルシーンに対応する密閉型ヘッドホンです。
「K240 Studio」と「K240MK2」は、物価高のなかでも価格が安くなり、1万円以下で購入することができるので非常にオススメです。
世界の定番のヘッドホンですので、無駄にブランド料が上乗せされているメーカーの製品を選ぶよりも失敗がありません。
価格は高額となりますが、AKG Kシリーズのフラッグシップモデルにあたる「Sound On Sound Awards 2021」のベスト・ヘッドホン(Best Headphones)に選ばれたオープンエアーダイナミック型ヘッドホンAKG K701の後継モデル「K702」と「K712」は、マスタリング用途にも使えるヘッドホンです。
Sennheiserのモニター用ヘッドホン
Sennheiser(ゼンハイザー)のモニターヘッドホンと言えば、オープン型ヘッドホンの「HD650」で、長いあいだ定番製品です。
後継機種の「HD660S」は定番となることはなく、ミックスやマスタリングだけでなく、リスニングにも使える「HD650」が現在でも、Sennheiserの定番ヘッドホンとして認知されています。
ひとつ「HD650」でネックになるのは価格で、1万円前後のモニターヘッドホンを探している人には「HD 280 Pro」がオススメです。
低域が出ているモニターヘッドホンを敬遠している人や、Apple EarPodsで最終確認して、なかなかしっくりこないという人は、現行モデルは「HD 280 Pro MK2」になりますが、一度チェックしておくとよいです。
また、フラットという言葉を各社で使っていても、各ヘッドホンで、特に低域の出方の強さに違いがありますので「低域が出ているほうが好きなのか?」ということを自分に問い掛けて、充分に考慮することが、失敗しないモニターヘッドホンのポイントとなります。